期会騒乱・1


少し色を付けて船漕ぎに金を渡すと、疾風は砂の大地に足を着ける。
 島と言うわりにこの地はとても大きい。一周歩くには二週間ほどはかかってしまうほどだ。そして、大地の起伏が激しいため、この地の開拓は遅々として進んでいないのが現状でもあるようだ。
 上の人間もこの地の広さを利用し、どうにかこの土地での農作をしようと考えているが、それも先送りされている。
 そんな静かな土地で全てが始まる……

「どうだ。気分は?」
船から下りてきた青年を覗くとどうも顔色が悪い。まだ悪寒を背負っているのかと思ったが、すぐに青年は口元を抑えて海の方へ向かってしまった。
「もしかして……酔ったのか?」
 逆流してきたものを一通り吐き出して、青い顔を一層青くして青年はこちらに振り向き頷いた。
「はぁ、一応人間的なモノ持ってるんだなお前は」
 そう疾風は呟く。確かに『死なない』という部分を抜かせば青年は人間以外の何者でもない。
 身体能力も『潜在覚醒』や『神経連結』を使わない限り人間と変わりがないのだ。
「俺も……驚いた」
 口を拭いながらおぼつかない足取りで、疾風の元に近づく。しかし、当然『死なない』という部分は問題だ。『死』は恐怖するモノであり、決して渇望するモノではない。
『死』を望むものなど、本来ならこの世界にはいないのだ。自殺志願者でも正直言えば「ここではないどこかへ」行きたいだけなのだから。
 この世に不変のモノがあるとするならばそれは間違いなく『生と死』だ。そして、それに真っ向から反逆している存在はおそらくこの青年と彼女だけだろう。
(何の理由があったのかね。彼女に……)
 疾風は独白する。自分が吸血鬼ではなく、まだ人間であったときに出会った『不老不死』の少女。全てに絶望し、『死なない』存在でありながら『死』を望んでいた彼女。
 そして、今ここにいる『不老不死者』は少女とは似てもにつかない青年だ。
 疾風も詳しくは知らないが『不老不死』の術は多い。『死』に恐怖する人間は、なるべく死を先延ばしにしようとありとあらゆる術を考え出した。現在確認されている術は疾風が確認できるだけでも三百前後。そのうち禁断の術とされている『禁術』の数は四八。その中でも約二割、十一がそれに関する術だ。
 そして、彼女と青年が持つほぼ完璧なまでの『不老不死』を創り出す術はその十一の内には存在しない。つまり、彼女と青年はたぶん同じ術によって『不老不死』になったのだろう。
 これは疾風の憶測だ。だがこれほど完璧な不死を創り出す術などそう多くはない。
 いっそ本来なら『無い』と断言するほどのものだ。だが、疾風は現に二人の不老不死者を見ている。
 その二人に何かしらの因縁を求めるのは自然なことではないだろうか。
「さて、少し休憩したら何処に行く? 三日ほど歩けば取りあえず村に着くみたいだけが」
 青年の様子を見ながら行くべき道を確認する。獣道の様な道が一つ存在するだけだが、あの道を辿れば取りあえず着くはずだ。正直道があるだけでもありがたい。
 最近では森の中をとにかく進んでいただけだったので、道を辿ることがどんなに楽なものか痛感させられた。
「そこに行く」
 出すものは全て出した様で、青年の元々生気のなかった顔はようやくまともになってきた様だ。
「分かった。そんじゃ行きますか」
 気軽に疾風は頷いた。

 例え獣道だとしても、道があるのと無いのではえらく違う。生物は結局の所、起きているだけでも体力を消耗する。
 当然歩くことでも消耗するが、高低差や道すがらの集中力の違いによって同じ距離とはいえ、やはり山道の方が消耗が激しい。しかも、距離自体は確かに変わっていないのでまだ体力があると錯覚してしまう場合もあるのだ。こう言った体力的な罠もあるので、森などに足を踏み入れる場合、疲れていなくても決まった時間毎に休憩を取るのが基本だ。
 もちろんこれは一般的な言い分なのでこの二人には当てはまらない。
 二人は、大の大人が手を伸ばしての転がれるぐらいの道を並んで、終始無言で歩き続けていた。別に理由があって無言でいるわけではない。この二人には共通の話題がないのだ。
 その上、青年は話しかけてこなければ返してこないので、話の起点は必ず疾風からと言うことになる。
 つまり、疾風が黙っていればこの二人は延々と会話のないまま行動を続ける以外にないと言うことだ。

 吸血鬼と不死者。この二人には体力という言葉は不要だった。敢えて言うなら吸血鬼である疾風は一日一回『食事』をする必要があるのだが、数百年生きた吸血鬼は『食い溜め』が出来るらしく、この三日間、疾風は食事をしていない。それに、疾風はいつも腰に固形化した血を竹筒に入れており、これだけでも疾風は数ヶ月保たせることが出来る。つまり、常人が三日かかる行程を、この二人ならその半分程度で済んでしまうのだ。それゆえ、旅路は実に順調に進んだ。
 だが、疾風はあと一刻ほどの距離で急に立ち止まる。青年もまた、疾風と同じく不穏な雰囲気を感じ取って、足を止めた。
「殺気だ」
 青年にしか聞こえない呟きを漏らし、疾風は右手で短刀を抜き、左手に鉈を取り出し構える。
 青年は特に構えもせず、自然体で視認を続けた。殺気は確かにあるが、森のざわめき以外にさしたる変化を見せるものはない。
「……来る!」
 その一言が引き金となった。二人の真上から森のざわめきと違った音が聞こえる。
「!」
「百弐拾五、風牙!」
 二人が視線を上に向けた時、その声の主より先に見えたのが透明の刃だった。
「ぐっ!」
 『透明の刃』が見えるという表現は矛盾するかもしれないが、その肌の感触と風切音から来るのが分かる。
 疾風は森の方へと飛び込んで、その刃を避けた。だが、青年はいつものようにその場に立ちつくす。
「なっ!」
 その驚きを漏らしたのは上から落ちてきた何かだ。青年は『透明の刃』を額、肩、足に受けて鮮血に染まる。
 しかし、その手の動きは止まらなかった。
「ふっ!」
 落ちてくるものを青年は『潜在覚醒』状態で右手で掴み、そのまま横の森へと投げ飛ばす。
 覚醒状態の青年は、自分の体重ほどの重量でも片手で扱うことが出来る。
 ただし、『潜在覚醒』は無意識な力の封印を外すだけなので、負担は当然かかってしまう。
 そのため、右腕一本を完全に壊しながらも、青年は左で腰に差しておいた刃を握った。
「きゃ!」
 森の木に当たったが、それほどの衝撃も感じなかったのか、その場で直ぐに体勢を立て直した。 
「こいつは厄介だ」
 横に飛んでいた疾風がいち早く相手を確認する。
 落ちて来たのは巫女装束の少女だった。
「陰陽寮の人間が、こんな所まで出張ってくるとはな」
 軽く疾風は舌打ちする。陰陽寮の人間にとって、彼等以外の『力』を持つものを許さない。
 特に吸血鬼は術使いの成れの果てだ。陰陽寮の人間と会った、ら間違いなく殺し合いになる。
「正直俺が一番会いたくない人間だったんだが」
 疾風は青年を見る。普通の人間だったら、立っているだけでも不思議な怪我だ。
 額は血に染まってその血は顔まで流れているし、左肩に至っては「透明な刃」を受けて腕が取れかかっているほどだ。だが、その左で銀の刃を持ち、巫女装束の少女を見つめている。
「君って、何者?」
 そして少女は口を開いた。別段変わったところはない普通の声色で、疾風ではなく青年の方を見ている。
「…………」
 青年は答えず動かずに少女を見ている。
 彼の戦い方は『後の先』を取る戦い方だ。いかなる攻撃に置いても死ぬことのない彼は敵の初段を自ら受け、その隙に自分の一撃を与えるのである。言ってみれば「肉を切らせて骨を断つ」なのだが彼の場合は骨を断たれても死なないので、同じ致死効果でも確実に有利なのだ。
 だから青年は答えずじっと少女の攻撃を待つ。
「何で吸血鬼の肩なんて持つわけ?」
「…………」
 不満の声だがそれでも青年は答えない。少女はそこで溜め息をつき、諦めた様に今度は疾風を見た。
「世界の歪み『吸血鬼』を見過ごすわけにはいかないからね。滅殺させてもらうよ」
 随分軽い口調で少女は疾風に宣告する。疾風は左の鉈はしまい、銀の短刀を逆手に持ち替え一時的に構えを解く。
「見逃してくれと言ったら見逃してくれるか?」
「う〜ん、私はいいんだけどね。おじさん見た目悪そうじゃないし。私って結構そう言うの分かるんだ」
 と、やる気なさそうに呟くが、急に後方から殺気を感じ、疾風は彼女の言葉の途中で振り返る。
「でも、シロは五月蠅いから」
 後ろにいたのは彼女だった。いや、絶対にそんなことはないのだが、一瞬のことで疾風は彼女が瞬間移動したのかと感じた。そして、彼女は何かしらの印を結んでいることに気づき、攻撃しようか防御しようかそれとも回避しようか一瞬で回答を迫られる。だが、彼女がそこにいるという事実に、その回答は時間切れで終わった。
「九拾七、不爆!」
 術が施行される。疾風は動けない。木にぶつかった少女も動かない。ただ一人動いたものがいた。
「潜在覚醒……神経連結」
全筋肉の能力制限を強制的に解除。そして、神経を中枢から末端まで連動化させて反射速度を上げる。
 この時点で青年は人間でなくなる。人間という枠から外れた『人外』となるのだ。
 少女と疾風の間へ、術の施行直後に青年は割り込む。端から見れば青年が瞬間移動したかの様に見えたかも知れない。現に木にぶつかった少女にはそう見えた。
 青年は単に足で二人の前まで走ってきただけだ。ただ、人間以上の筋肉と神経を駆使しての超高速移動。
 青年の足の筋肉繊維数本が切れ、神経が過剰容量によって焼き切れる。
「なっ!」
「ばかやろっ!」
 少女と疾風の驚愕の叫びと同時に青年は術の爆発によって疾風の方へ吹き飛ばされる。
『不爆』によって音無き爆発が青年の胸に直撃したのだ。
「うわっ!」
 疾風は叫びながら青年を受け止め、道ばたまで飛ばされ青年を抱きかかえながら倒れた。
「おい! 死んだか?」
 直ぐに疾風は立ち上がるが青年は立とうとしない。既に損傷は普通の人間なら二回は死んでいるほどだ。
 だが、額からは血を流しておらず、全身既に回復が始まっている。
「死んでない」
言って、先ほどまで壊れていた右手を軸にして青年は立ち上がる。
 だが、神経系がうまく働いていないのか、そこで膝をついた。
「無茶しすぎだ」
 素直に疾風は感想を述べる。なにせ、『潜在覚醒』と『神経連結』は青年の奥の手だ。
 本来なら一撃必殺の技で、使用後には必ず何かしらの身体障害で行動できなくなる。
『潜在覚醒』なら使った部位の筋肉繊維が切れて動けなくなり、『神経連結』は神経が焼き切れて意志では動かせないところが出てくる。しかも、術を二回も受けたのだ。
 不死の体を持っていても直るのには時間がかかるだろう。
「死んでない……? どうして?」
 不爆を使用した木にぶつかった少女と同じ顔を持つ彼女は、鋭い目つきで青年を見つめる。
 だが、それは一瞬だった。
「シロ!」
 全ての思考を青年から切り離して、疾風の方に向ける。すでに反対側の少女は印を組み始めている。
「まだ撃てるのか……」
 術はその威力は非常に強力だが単発だ。何しろ生命力を削るため、過剰な使用は術者の寿命を縮める。
 もちろん、自分の持っている生命力を熟知して術の使用を制限すれば、普通の人ぐらいには生きることが出来るだろう。
 しかし、現在に置いても人並みに生きられた術者はいない。
 そして、大抵の術者は一日に撃てる術は一度までだ。当然、術の強さにも関ってくるが、中には二度三度と使える術者もいる。しかしながら、それは極めて稀だ。疾風も生前に使える術は一度だけだった。
 両者が印を組み、その間に疾風と青年がいる状況。どちらかを攻撃してもどちらかが術を完成させる。
 両方を攻撃している暇はない。「風牙」と「不爆」、どちらも疾風の知らない術なので、どのくらい彼女たちが生命力を失っているのか分からない。
 どちらを攻撃する?
 一瞬そんな思考がよぎる。だが疾風は首を振った。
(俺が人を傷つけたら、マズいか)
 銀の短刀を構える。こうなったらこれで術を弾くしかない。『力』を有するものならこの短刀の対象になる。
 一方の攻撃なら確実に処理できるが、もう一方は甘んじて受けることになるだろう。
(生きられるかな俺……)
 そう思った自分に自嘲した。生きる理由なんてとっくににない。
(死んだらその時だろ)
 どちらを防ぐか見極める。印の長い方が強いだろうと言う短絡的な理由から、木にぶつかった少女の方を定めた。
 そして印が終わる。
『弐百壱、竜破』
 声は同時、言った単語も同時だった。木にぶつかった少女の方が印の組が苦手で、ただ遅かったらしい。そんな事実を察して舌打ちしながら術の発動を見極める。
 最初、少女の目の前の空間が歪んだ。その空間からゆったりと何かが浮き上がっていく。そして、眼前に現れたのは光の竜だった。大きさは周りに生えている木ぐらいだがその存在感は木の比ではない。
「マジかよ……」
 見るからに自分の胴体など引き裂かれてしまいそうな勢いを持っている。
 これが後ろにもあると思うと、最早生死どころか五体吹っ飛ぶんじゃないかと疑問になるが、そんな一瞬の思考などお構いなしに、二人の印が変わった。
『翔!』
 竜が襲いかかる。早い。
 が、疾風は後方から襲いかかる竜に関しては感覚を遮断した。もう何を考えても始まらない。やることをやるだけだ。
「頼むぜ!」
 竜は迷うことなく疾風の胸に飛び込んでくる。その瞬間、逆手に持っていた銀の短刀が閃いた。
 まさに一閃。
 次の瞬間、竜は動きを止めた。『力』あるものを殺し得る力を持った銀の短刀の効果だ。
 こちらはもう問題はない。後は勝手に自壊していくだけだ。
 疾風の思った通り、竜は尾の方から粒子となって空中に霧散していく。しかし、疾風は一つの疑問を浮かべた。
(何でもう一つが来ない?)
 向こうの少女は目を見開いて言葉を失っていた。術を破ったからではない。
 その証拠に、彼女が見ている方向は疾風よりも後方に位置している。
 疾風もゆっくりとそちらに振り返った。
「なっ……!」
 少女と同様に疾風も目を見開いた。そこには、胴体を喰われている青年がいたからだ。
 青年は口に加えておいた刃を、竜の頭にそのまま突き刺しす。その瞬間に、竜はまるで風船がはじけたかの様に一瞬で霧散した。
 青年が刃を口に加えていた理由は最早体全体で動かせるのが首と顔程度しかなかったからだ。
 その状態で再び『潜在覚醒』と『神経連結』を使用して疾風の前に現れ、敢えて竜に喰われた。
 そうしないと、竜に刃を突き立てることが出来ないから。
 理由は分かるがそれを実行するものなど、この場に彼以外いない。何よりできやしない。それほどの荒技だった。 
 竜が霧散することで支えを失った青年は地面に落ちた。
「おい!」
 疾風が駆け寄る。しかし、青年は何の動きも見せない。先ほどまで動かせた部位も『神経連結』で完全に断ち切れてしまっているはずだ。動かせるはずもない。
 そう頭で分かっているが、疾風はうつぶせに倒れている彼を抱き起こす。
「今度こそ死んだか!」
 疾風が予想した言葉は出て来なかったが、ボロボロの姿で声も出さずただ口だけを動かして

 死んでない 

と、告げていた。
「どうやったら死ぬんだよホントに」
 適当に青年を投げて、疾風は立ち上がる。
「後、何回術が使える?」
 二人を交互に見返す。正直、今度撃てたら疾風もただでは済まない。青年はもう動くことは出来ないので、これから受ける術は自分で回避するしかない。だからハッタリとして疾風は出来る限り強気でそう発言した。
「シロ、今日はもう止めた方が良いよ」
 木にぶつかった少女が向かいの少女に語る。
「ハナ。黙って化物を見過ごすというの?」
「それにしても、あのお兄ちゃんが傷ついてるだけだし、もう『供化』使うぐらいしかないよ」
「…………」
 『供化』とか言う術がどういうものなのかなど、疾風は全く知らないがとにかく二人は悩んでいる。
 この状況なら逃げられるかも知れない。ゆっくりと疾風はうずくまり青年を抱える。
「今は任務が最優先だよ」
 木にぶつかった少女の言葉を疾風は合図にした。
「!」
 青年を抱きかかえ、今まで来た道を一目散に走る。
「あ!」
「駄目よハナ!」
 追おうとした少女をもう一方が止めた。しかし、疾風にそんなことなど聞こえるはずもなく、疾風は森の中に潜り込みそのまま姿を消した。

「逃げられちゃった……」
 ハナはそう言って嘆息する。だが、すぐシロの方へと顔を覗かせた。どうも不満がある様だ。
「何で追おうとしなかったの?」
「今の私達じゃ二人でかからないと倒せないからよ」
 シロも溜め息を付く。そして二人は道へと入ってきた。
「そうか。確かにもう術は使えないしね」
 二人が使える術は二回半。最後の三つ目は『供化』を使わなければ使えず実質普通の術なら一人で使う場合は二回が限界だった。  
「でも、あのお兄ちゃんは何だったのかな?」
「それは私も聞きたいわ」
 化物の隣にいた青年。最初はただの人かと思ったが術を三度直撃しても死ななかった。
「私、あんな頑丈な人を見たの初めてだよ」
 ハナは素直に感心していた。だがシロは至って沈痛そうだ。それに気づいてハナはシロの顔を覗く。
「どうしたのシロ?」
「あれは人なのかな……頑丈なんて言葉じゃ、言い表せない」
「う〜ん、化物や妖じゃないよね。感知してないし」
「じゃあ何なのかなって思って……」
「どうだろ? でもいいじゃん。もう終わったんだし。それより早く村に行こうよ」
 ハナはいつも過去を振り返らない。それが強さなのだと思い、シロはこの双子の片割れに呆れながらも同時に憧れていた。
「……そうね。でも、決着は付けないと」
「ええ〜、だから止めようと。あの人そんなに悪い事してないよきっと」
「だから何でハナはそんな根拠のないことを平気で言えるのよ」
「根拠ならあるもん」
「そう思ったからなんて回答はなしよ」
「う゛っ……」
 そこでハナは止まった。どうやらそう言おうとしていたらしい。
「ま、確かに任務の方が重要なのは確かね。それじゃ行きましょう。ハナ」
「うん!」
シロの同意を得て、ハナは村へと走り出す。止めようとしたシロだが、諦めてふと疾風が入っていった森の方へ視線を向けた。
(竜破を放った一瞬……)
 青年が立ち上がりこちらに視線を合わせていた。強烈な意志を宿した瞳。
 何故吸血鬼のためにあれほどの深手が負えるのか、シロには全く理解できなかった。
 ただ興味はあった。
(出来れば……)
 もう一度会ってみたい。聞いてみたいことはいくらでもある


 何故あの吸血鬼を守ったのか

 何故死なないのか

 何故私たちを攻撃しなかったのか


 そう思っている自分に気づきシロは笑った。
「変な私……」
 そしてシロもハナを追いかける形で村へと歩く。

 村は後少しでたどり着ける場所にあった。

闇久の糸〜四章「期会騒乱・1」〜終
 

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