2分41秒

 
 人は常に孤独である。
 誰かがそう言った。けど、彼女はそんなことは無いと思っていた。直ぐそばに誰かがいれば孤独などないと。
 そう思っていた。
 
「…………」
 
 昼食の時間。伏見春子(ふしみはるこ)はいつものように母に作ってもらったお弁当を食べていた。母親は朝の貴重な時間にこのお弁当を作るので、おかずの中心は冷凍食品と昨日の残りなのだが、もちろん文句は言わない。それを言ったら
 
「じゃあ、春子が作ったら?」
 
 と言われるに決まっているからだ。だから文句は言わない。それに味だって悪くは無いので、むしろ感謝しているくらいだ。
 
「……………………」
 
 それをじっと見つめている男子が一人。二ヶ月前ある事件で友人になった石橋崇(いしばしたかし)という少年だ。春子が「普通」という言葉をそのまま体現したような女子なら崇は「普通」という言葉をそのまま体現したような男子だった。
 
「ねえ、石橋君」
 
 一旦食事を止め、箸を置く。
 
「ん?」
 
 視線が完全に弁当ににいっているので、その声を聞いて初めて崇は顔を上げた。
 
「何してるの?」
 
「弁当を見てた」
 
 そのまま春子が思っていた通りのことを告げる。
 
「何で?」
 
「弁当ないんだわ、俺」
 
 春子の机に突っ伏してぐったりと、まるでそのまま机の上で溶けてしまいそうな雰囲気だ。
 
「そうなの?」
 
 視線が消えたので、春子は再び食事を再開する。そういえば食事中、崇が教室にいないことを思い出す。まあ、目の前にいるクラスメイトを意識したのはつい最近なので、それ以前のことは分からないが。それに普段春子は友人と食事をするのが常なのだが、この日に限っては何故か、友人全員が部活やら生徒会やらで用事があってそちらに行ってしまっていたのだ。そのせいで珍しく一人で食べているのだが。
 
「いつもならカップラーメンかパンでも買って食べるんだけどさぁ。今日は金が無くて」
 
「ご愁傷様」
 
 そう言っておかずのグラタン(冷凍食品)を口に入れる。
 
「…………冷てぇ。マジで冷てぇよ、伏見」
 
「はいはい、じゃあ、このリンゴ食べていいよ」
 
 春子はお弁当とは別にあったタッパを崇に差し出した。
 
「サンキュ。やっぱり持つべき者は友だよな」
 
「調子がいいなぁ」
 
 ため息をつきつつ苦笑する。崇はタッパを開けてリンゴを口の中に放り込む。
 
「果物なんて久しぶりだなぁ。高くて買えないし」
 
 本当においしそうにリンゴを食べる崇を見て、春子は複雑な心境になった。
 
 
 崇はある理由で一人暮らしを続けている。その理由を崇と知り合ったその事件で春子は知ることになった。崇の世界は自分とはまったく違う世界のもので、目の前に彼がいることが信じられないくらいだ。その上一人暮らしである苦労は春子には何となく分かる。食事や掃除などすべて自分一人で行なわなければならないのだ。親の脛をかじっている自分にはとてもまねできない。
 
 
 リンゴを全て食べ終わり、合掌した後にタッパを返す。
 
「石橋君って普段なに食べてるの?」
 
「そうだなぁ…………」
 
 ちょっと考えてみる。
 
「だいたいカップ麺か弁当屋の弁当だな」
 
「うわ〜、若いときから偏った食生活」
 
「つっても料理なんて出来ないしな。ちなみにカップ麺ちょっとした持論がある」
 
「どんなこと?」
 
「俺はカップ麺は2分40秒で開けるんだ」
 
「…………3分じゃないの?」
 
「俺はちょっと麺が固いほうが好きなんだ」
 
「ふ〜ん…………」
 
 弁当の中のミニトマトを口に放り込む。
 
「ずいぶんと冷ややかな応答だな」
 
「あんまり興味ないかな。私はちょっとのびてた方が好みだし」
 
「そうかぁ? のびたら美味くないだろ」
 
「それは人それぞれだと思うよ」
 
「ま〜な〜」
 
 そう言って窓の方に顔を向ける。それを眺め、そして、弁当の最後まで残しておいたブロッコリーを口に入れた。
 
 
「今年のバレンタインデーは水曜日かぁ」
 
 放課後。いつものように『高井時計店』に寄った春子はお茶を飲みながら対面に位置する店主を見た。
 
 目の前の店主は見た目は若い青年だった。顔立ちはすっきりしていて清潔感が漂い、何となく涼しげな雰囲気を漂わせている。細身の体からもその印象が強く出ている。目はサングラスで隠れており見ることは叶わないが、彼の一番特質すべき所は着ているものだった。彼は紺の着物を着ているのだ。正確には着物ではなく着流しなのだが、普段から見慣れていない姿はどこか彼を浮世離れさせている。
 
 この目の前の青年こそがこの高井時計店の店主、高井穐(たかいとき)だった。
 
 
「欲しいんですか。チョコ?」
 
「男なら当然」
 
 堂々と言う彼に春子は思わず苦笑する。
 
 
 この高井時計店に春子はすでに半年近く通っている。もちろん部活があるので、毎日通うことは出来ないが、それでも時間が空くとこの店に通っていた。この時計店にはこんな田舎の店だというのに機械式時計しか扱っていないのだ。春子はその時計一つ一つを眺めたり、穐から時計の話を聞いてよく時間を潰していた。
 
 
「良いですよ。じゃあ、今度チョコケーキを焼いてきます」
 
「おお、凄いぞ女子高生。そんなこともできるのか」
 
「私だってそのくらい、できますよ」
 
 朝食、弁当はすべて母任せだが、こと、夕食に関しては下ごしらえなどほとんど春子がやっている。祖母も夕食を作ることは出来るが、祖母は和食中心で洋食を食べたければ春子が準備をするしかない。
 
「いやいや、今時の女子高生は料理もろくに出来ないだろ。まったく嘆かわしくて見てられないし」
 
「う〜ん、でも私もいきなり元も無くて『マーボー豆腐』を作ってくださいって言われてもできないですよ」
 
 テレビ番組で料理の出来ない女子高生などよく取り立たされているが、食材や調味料が名前も書かれずに置かれ、しかも元を入れるだけで出来る料理を『一から作ってください』などと言われても出来るはずがない。まあ、さすがに片栗粉と重曹を間違えることは無いとは思うが。
 
「それにケーキを焼くときなんかいつも料理の本が無いと駄目ですし」
 
「いや、それでもできるだけ凄いって。僕なんてまるっきり駄目。包丁持ったら食材じゃなくて左手切っちゃうし」
 
「意外ですね。穐さんってあんな小さな時計を直しちゃうのに包丁は使えないんですか」
 
 目の前にいる店主は複雑時計の本場、スイスで時計技師として修業していた過去を持っている。一度機械式時計の修理を見させてもらったが、恐ろしく小さな歯車をこれまた恐ろしいくらい小さな道具でてきぱきと組み込んでいく穐の姿はまさに職人であった。
 
「人には得手、不手があるのさ。僕は時計は直せるが料理は出来ない。春子ちゃんは料理は出来るが時計は直せないってね」
 
「なるほど。そうですね」
 
 確かにその通りだ。そう思って春子はお茶をすすった。
 
「…………ごめんください」
 
 そんな穏やかな時間をすごしていると、木戸が開き、誰かが店に入ってきた。
 
「はい、いらっしゃい」
 
 穐はお茶を置くと、店内へ向かう。この店の店内は中央にガラスケースがあり、その中に時計が静かに眠っている。また、左右の壁にはそれぞれ壁掛け時計や置時計が置かれ、さながらこの店は時計の森のような印象を相手に与える。
 
 やってきたのは一人の老婦人だった。高そうなコートに身を包み、しかしそれが一切浮いていない。セレブとはこういう人を言うんだろうなぁと、春子は店の奥でお茶を飲みながら思う。
 
「何をお探しですか?」
 
「ええ、夫に時計をと思いまして。良く行く店でここを紹介されたものですから…………」
 
「そうですか。驚いたでしょう。こんな小さな店ですから」
 
 朗らかにそう言いながら少し緊張している老婦人を和ませる穐。
 
「いえ」
 
 しかし、そうは言ったものの未だに釈然としない顔をしている。まあ、老婦人の戸惑いは春子には十分に理解できた。何しろ商店街から外れも外れた一見しただけでは見つからないような店で、一本数十万するような時計を売っているのだ。普通の神経では考えられないことだろう。しかしお客はそれなりに来るらしい。先ほどの老婦人と同じように様々な紹介でこの店を教えられるのだそうだ。
 
「まあ、まずはご覧下さい。もしお気に入りのものが無ければお探ししますよ」
 
 そう勧められて老婦人はそのままガラスケースをゆっくりと眺める。そしてその表情がゆっくりと驚きの表情に変わっていくのが分かった。
 
 ロレックスのメジャーどころから始まり、オメガ、ゼノウォッチなどのクロノグラフ。ブレゲ、オーデマ・ピゲのトゥールビヨン。天才と称されるフランク・ミュラーが作り出したクレイジーアワーなど、ここに時計好きが一人でもいれば、ガラスケースに入った一本の時計だけで一日は話すことが出来るだろう。
 
「どうです。お気に召しましたか?」
 
 堂々とそう言ってのける穐。老婦人にはすでに戸惑いの表情は消えていた。
 
「ええ、驚きました。申し訳ございませんが、この時計の数々を見るまでどこか私はこの店を疑っておりました」
 
 そう言って頭を下げる老婦人。しかし穐は手を振ってとんでもないと言う。
 
「いつものことです。それよりどうでしょうか。何か気に入ったものはございませんか?」
 
 頭を上げる老婦人の表情はすでに憂いはなかった。
 
「そうですね。もう一度奥の時計を見せていただいてよろしいでしょうか」
 
「もちろん。どうぞご覧下さい」
 
 老婦人は穐を共にして店の奥の時計を眺める。穐の後ろを歩く姿はどこか王女と従者を思い立たせる。そんな二人を春子が眺めているとふと、老婦人の目線が上に上がり、春子と目が合った。
 
「!?」
 
 驚く春子に対して老婦人は鮮やかな笑顔を向ける。
 
「可愛らしいお嬢さん。お子様ですか?」
 
 穐に顔を向ける。穐は少し困った顔をして。
 
「いえ、近くの学校の学生です。僕のようなおじさんに付き合ってくれているんですよ」
 
「おじさんなんて。まだ若いでしょうに」
 
「いえ、今年で三十路です」
 
「あら、やだわ。私はてっきりもっとお若いのかと思ってましたわ」
 
「よく、言われます。家内にはいつもフラフラしてるから大人になりきれないんだと言われてますよ」
 
「そうなの。それじゃあお子さんは別に?」
 
「いえ、まだいません」
 
「そう。でもまだお若いんだからこれからですね」
 
「…………そうですね」
 
 老婦人はそのまま顔を春子の方に向けたから気づかなかった。穐が少しだけ戸惑った表情をしたことに。その理由を春子は知っている。穐と奥さんである茉莉さんには決して子供はできないことを。何しろ茉莉さんは『人ではない』のだから。
 
「お嬢さん。お名前は?」
 
「え、あ、伏見春子です」
 
 緊張して言われたことに素直に答えてしまう。それを聞いて老婦人は再び笑った。
 
「そう。私と一字違いなのね。私は春風(はるか)。刀根春風というの。よろしくね」
 
 老婦人、春風はまるでその名の通りの暖かな笑みを浮かべる。その笑顔を見て、春子は一気に緊張が解けたような思いだった。
 
「はい、よろしくお願いします」
 
 春子も笑顔で答える。その笑顔に満足したのか、春風は再び時計の吟味を開始した。
 
「穐さん」
 
「ん?」
 
「私、お茶を入れてきましょうか?」
 
「ん、あ〜悪いけど頼めるかな」
 
「はい。いれてきますね」
 
 春子は勝手知ったる穐の家。お茶をいれるため台所に向かった。
 
 
「そうですね。もうすぐ還暦を迎えるご主人でしたらクロノグラフやスケルトンのようなカジュアルなものよりはもっと落ち着いたものの方が良いかもしれませんね」
 
「ええ。主人にはそういったものは似合わないと思うから」
 
「なら、よりシックなものですね。ブランパンなどいかがでしょうか。深みのある男性にはそのシンプルさとアクセントとなる複雑機構など似合うかと思いますが」
 
「あら、素敵ね。こちらは?」
 
「ル・ブラッシュ・スプリットセコンド・フライバック・トゥールビヨン。世界で五十本しか製造されていない限定モデルです。材質はプラチナ。自動巻きで四十時間のパワーリザーブが付いてます。後は生活防水もありますから顔を洗うときに取り外す必要はありませんね」
 
「手にとってよろしいですか?」
 
「どうぞ」
 
 春風は穐が差し出した時計を手に取る。白銀の外装をした時計。その外装の美しさもさることながら、中身もそれに勝るとも劣らない美しいものだった。外の秒針の中に三つの計器があり、時針と分針、そして後何時間動くことが出来るか一目で分かるパワーリザーブが付いている。そしてその三つの計器の下には重力変化による誤差の発生を防ぐ複雑機構トゥールビヨンが埋め込まれているのだ。その緻密な造詣を見ているとこんな小さな時計であるのにまるで広大な宇宙を見ているような気持ちになる。
 
「素敵…………」  
 
 もう一度、その言葉を呟く。春風はその時計をどこか愛しく見つめ、顔を上げた。
 
「これ、おいくらかしら?」
 
 
「ありがとう。春子さん」
 
「いえ」
 
 春風の前にお茶を出し、そのままお盆に乗せたもう一つのお茶を穐にも出す。
 
「刀根様のようなお方に出すお茶ではないと思いますが」
 
 恐縮する穐に春風は微笑む。
 
「とんでもない。私自身は庶民の出ですもの」
 
 そう言って、春風は春子の出したお茶を一口すすった。
 
「それよりごめんなさいね。私みたいなおばあちゃんが居座っちゃって」
 
 申し訳なさそうにする春風に春子は慌てて手を振った。
 
「とんでもないです。私はただ遊びにきただけですから」
 
 お客さんが大事なのは当たり前だ。それにこの店で本当に時計を買っていくお客さんを見るのは初めてだ。もの珍しさも手伝って窮屈さは感じていない。
 
「そう。春子さん。あなたにはおばあちゃんはいるの?」
 
「はい。おじいちゃんもいます」
 
「そう。あなたのような可愛らしいお孫さんがいたらおばあちゃんとおじいちゃんはとても幸せね」
 
「可愛らしいなんて…………」
 
 今まで言われたことが無いので、顔を赤くする春子。それを見て春風はより一層微笑みを強くした。
 
「ふふ。私もあなたのような孫が欲しかったわ」
 
「お孫さんはいらっしゃらないのですか?」
 
 穐が訪ねる。
 
「ええ。子供は欲しかったけど、うまくいかなくて。今思えば養子をもらえば良かったわ。老後に寂しい思いをしなくて済むもの」
 
 先ほどとは違う乾いた微笑。寂しげな笑みを見ていると春子は胸が締め付けられるような思いだった。
 
「私と夫はその当時、とても忙しくて。すれ違うこともよくあったの。けれど絆は残っていたから今までやってこれた。子供がいなくても私たちは本当に愛し合っていた」
 
 それはどこか言い聞かせるように切ない声だった。何故、そんな風に昔を語るのか。
 
「刀根様…………」
 
 穐は何か言いたげに口を開いたがしかし、それを語ることが出来ず、口を閉じた。春子は穐の表情を不思議に思う。何故か沈痛そうな面持ちで、いたたまれない表情を浮かべていた。しかし、それを見た春風は笑う。
 
「穐さんは気づいたようですね。それとも最初から気づいていましたか?」
 
 穐が一体何に気づいたのか。春子にはまるで分からなかった。クイズ番組を見ていて自分だけ答えが分からないような状況だ。
 
「今気づきました。僕は最初、ご主人様がかと思っていましたが…………」
 
 苦い表情の穐に対して春風は実に穏やかだった。
 
「このお話はここで終わらせましょう。悲しい話をするのはよくないわ。春子さん。お座りになって。私、あなたのお話が聞きたいわ」
 
「え?」
 
「ちょっとした、ごっこ遊び。もし私に孫がいたらというね」
 
 そう微笑む春風に対して拒否することなどできるはずも無かった。
 
 
「そうなの。バスケットを…………」
 
 何を話していいのか分からず、とりあえず春子は自分の学校生活の話をすることにした。
 
「はい。一応レギュラーをしているんですけど私たちのチーム弱くて公式戦でも一勝が精一杯なんです」
 
「でも、凄いわ。レギュラーなんて。私も昔バレーをしてたけど、万年補欠だったの」
 
「でも、内は人数もそれほど多くないですから」
 
 何に対しても褒めてくれる春風に恐縮するしかない春子は手を振ったり、慌てて否定したりばかりだった。それをおもしろそうに見ている穐がちょっと憎たらしかったが、春風の手前、そんな表情も出来ず、春子は彼女の質問や自分の話を続けた。
 
「春子さん。夢はあるの?」
 
 春風は次の質問をする。
 
「夢ですか」
 
「そう。将来の夢とかあるかしら?」
 
「あ、それなら」
 
 春子の表情が変わる。
 
「私、保母さんになりたいと思ってるんです」
 
 そう、誇らしげに言った。 
 
 これは春子が高校に入る頃からの夢だ。元々子供好きで夏休みやまとまった休日が出来ると近くの保育園に行って子供達と遊んでいるほどだ。すでに自分の道はこれしかないと感じ取っており、短大の資料も集め始めているほどだ。
 
「保母さん…………素敵な夢ね。どうして保母さんになろうと思ったの?」
 
 先ほどまでの春子とはどこか違う雰囲気に気づいたのか、春風の顔はどこか挑戦的だ。しかし、一方の春子はまるでそれに気づいていない。
 
「元々子供が好きだったんです。それに保母さんになるってある子に約束して…………」
 
 その「約束」について語ることが出来ないことに気づき、春子の言葉は止まる。だが、その心象を汲んだのか、春風は何も追求せずに先ほどまでの笑顔を向けた。
 
「そうなの。がんばってね」
 
「はい」
 
 春子は素直にそう頷いた。と、春子が顔を上げると戸が開くのが見えた。
 
「ごめんください」
 
 玄関から入ってきたのはスーツを着た一人の男性だった。声を聞いて、穐と春風もそちらを見る。
 
「奥様」
 
 そう言って男がこちらに向かってくる。
 
「あら、新井さん。どうしたの?」
 
 どうやら春風の下で働いている男性のようだ。
 
「奥様。すでにお時間が…………」
 
 慎ましく宣言する男性を見て、春風は自分の手首に巻かれた小さな時計を見て驚く。
 
「あら、もうこんな時間なのね。ごめんなさい新井さん」
 
「いえ…………」
 
 謝る春風に対して恐縮する男性。春風は穐と春子の方へと振り向く。
 
「ごめんなさい。この後予定があるの。お話の続きはまた」
 
「はい。分かりました」
 
 穐は笑顔で頷く。
 
「春子さん。またお話聞かせてくださる?」
 
「はい。今度は春風さんのお話も聞かせてください」
 
「そうね。今日は春子さんばかり話してもらったから、今度は私のお話をするわ」
 
 椅子から立ち上がり、男性の元へと向かう。
 
「ふふ、でも時計屋さんにいるのに時間を忘れるなんて、可笑しいわね」
 
「そうかもしれませんね」
 
 春風を送るために穐は立ち上がり、春子もそれに従った。
 
 玄関に出ると高級車が一台店の前に止まっている。黒塗りの上品な車で、名前は分からないが凄い高いんだろうなぁと春子は漠然とそう思う。男性が後部座席への扉を開け、それに従い春風はそのまま後部座席に乗り込む。男性はそのまま運転席に向かうが、その間、窓が開いて、春風が顔を見せた。
 
「今日はありがとう。とても素敵な時間だったわ」
 
「いえ、こちらこそお買い上げいただき、ありがとうございました」
 
「春子さん」
 
 春風は頷き、そして隣にいる春子を見る。
 
「はい」
 
「がんばってね」
 
 そう春風は言う。春子はただその言葉を聞いて、
 
「はい!」
 
 そう笑顔で答えるだけだった。それに春風は満足そうな笑みを浮かべ、手を振りながら窓を閉める。車はそのまま走り去っていってしまった。
 
 
「凄かったですねぇ」
 
 車が見えなくなるのを確認して、二人は店に入る。
 
「たまに来るのさ。ああいう貴族みたいな人が」
 
 穐はサングラスの位置を直しながら後ろにいる春子にそう呟く。
 
「う〜ん、本当に住んでる世界が違うみたいですね」
 
 春風の浮世離れした雰囲気を思い出す。彼女に似合う風景はどこかのお城で数十万のカップを使い紅茶を飲んでいる姿だった。
 
「まあ、久しぶりに良い商いができたし、満足さ」
 
「私も満足です」
 
 とても優しい春風と知り合いになれたこと。それだけで今日は良い一日であったと言えるだろう。
 
「それじゃあ、私も帰ります」
 
 店の奥に置いていたバックを取り出す。
 
「うん。気をつけて帰って。今日は寒いからバイクは滑るよ」
 
「はい。分かりました」
 
 コートを着込み、ヘルメットをかぶる。
 
 
 春子はスクーターで学校に通っている。春子の通う学校は田舎の学校なので、バスや電車の交通機関が発達していない。何しろ一本逃せば次に来るのは二時間後なんてこともあるのだ。そのため移動手段として春子の学校では原付自転車の登下校を許可している。
 
 
「それじゃあ、穐さん」
 
「うん、気をつけて」
 
 手を振る穐に見送られ、春子はスクーターを走らせた。 
 
 
 愛車をに身を任せ、国道に出るため春子はアクセルを回す。愛車のスクーターは春子の思い通りのスピードを出してそれに応えた。まだ二月なので風はまるで刃のように春子の体に寒さを刻んでいく。スクーター用に完全防備をしているはずなのに、それでも風はあらゆる隙間から入ってきた。左にウインカーを出して、曲がるために減速を始める。しかし春子は左に曲がる前にスクーターを止める。そのままエンジンをふかせながら、ある一軒の家を見た。
 
 新築のその家は半年前、ある事件でその事件の当事者となった一人の少女の家だ。今は生まれて半年しか経っていないが、半年前、春子は彼女の十歳の姿を見ている。
 
 
 いわゆる「時形」と呼ばれる時計がこの世には存在している。本来の時計は「時を計る」ためのものだ。しかしこの「時形」は「時を形にしたもの」とされている。半年前、そして二ヶ月前、春子はそれぞれこの「時形」による事件に巻き込まれた。
 
 
「時形」は時を司る。
 
 
 半年前の事件では「時形」によって十年前、つまり今の春子の時代に飛ばされた少女が現れた。また、春子はその少女からもらった時形によって一日を五回も繰り返す事態に陥ったこともある。
 
 
 また、二ヶ月前の事件では時が止まってしまうという大事件が起きた。その際、何故か動くことの出来た自分とそして崇によってどうにか事件を解決させることができたのだ。
 
 
 そして、一日を五回も繰り返した状況を助け出し、時が止まってしまった事件でヒントを与えてくれたのが、あの高井時計店の店主、高井穐と奥さんである高井茉莉なのだ。
 
 
 穐はスイスに在学中「時形」を知り、そして「時形」を封印する「時計塔」と呼ばれる集団の一員になった。そこで最古にして最高傑作である時形「マリーアントワネット」を譲り受けることになる。「時計の進化を二世紀早めた男」アラン・ルイ・ブレゲが作り出した複雑懐中時計「マリーアントワネット」を心臓とする自動人形は穐によって新しい名前を得て、現在に至っている。
 
 
「…………」
 
 その家を見て、春子は複雑な心境に陥る。十年後、あの少女は悲しい事件に巻き込まれる。だが、それを知りながら自分は何一つすることができない。いや、してはいけない。歴史を改ざんすることは決してしてはいけないと穐に厳しく言い渡されているのだ。だから十年後、彼女の両親が交通事故で亡くなることを春子は決して告げることが出来ないし、たぶん出来ないようになっている。時形のない者は時を司ることが出来ない。つまり、どのような手段を用いても結果は変わらないのだ。それが時の動きの定め。起こる結果を変えることは決して出来ない。悲しき結末を、辛い出来事をどうしても話すことは出来ない。
 
 
 それを悲しいことであると思いながら、春子は何も出来ず、いたたまれない想いで、それを振り切るかのように再びアクセルを回した。
 
 
「人は常に孤独である…………そばに誰がいようとも、誰も自分を理解することなど出来ないのだから…………」
 
 
 その羅列を読んで、春子はその本を閉じた。
 
 
 何故か自分の部屋においてあった小説。偶然開いたその一文が、春子の印象に深く残っていた。帰ってから妙に気になったので、その部分をもう一度読み直すためその一文を探し出し、じっくりと読み直した。
 
 
 誰も自分を理解できない。
 
 
 言葉は不完全で、かと言って行動で示してもそれが本当に自分であるかは疑わしい。脳が感じたことは何かに伝達することで不純物が混ざる。どんなに優秀なコミュニケーションの道具を使用してもそれを解消されることは決してない。故に私たちは誰一人も理解することが出来ない。
 
 
 春子は目を瞑る。他者を理解することはとても難しい。春子もそれは分かっている。赤ん坊が泣いている理由を知るのは難しいし、映画を見て泣く人もいれば笑う人だっている。両者はけっしてその部分で理解することはできないだろう。
 
 
 自分は何を分かっているのだろうか。
 
 崇を。
 
 穐を。
 
 茉莉を。
 
 春風を。
 
 あの少女を。
 
 
 正しく理解することが出来ているのだろうか。
 
 
 それは分からない。たぶん聞いてもわからないことなのだろう。そんなことを考えながら春子はそのまま眠りについた。
 
 
 幸せな夢を見ていた。崇の両親が離婚せずに仲良く暮らしており、春風が孫を抱いていたり、あの少女が両親と共に生活している夢。けれど、春子は知ってしまった。その夢が現実ではなく、夢であることを。夢であると知りながら、春子は願った。
 
 
 この夢が現実であるようにと。
 
 
「おお! 覚えててくれたんだ!」
 
 二月十四日。春子はチョコレートケーキを持って高井時計店にやってきた。
 
「穐さん。もしかしておねだりしたんですか?」
 
 店内を掃除していた茉莉は呆れながらそう呟く。穐がその格好で浮世離れしているならば、茉莉はその容姿で浮世離れしていた。完璧な左右対称の顔立ちにその身長から肉付きまで、人間が美しいと思える全ての要素が詰め込まれているのではないかと思えるほどで、これで左の薬指に指輪が無ければ放っておく男など、いないだろう。
 
「だって、女子高生からチョコレートなんてもらったことないんだもん」
 
「はぁ〜、これだから穐さんは。もう少し大人になってもらいたいですね」
 
「ははは」
 
 乾いた笑みを浮かべつつ、春子はテーブルにチョコレートケーキを置いた。市販の用にふっくらと作ることは出来なかったが、悪い出来ではない。
 
「早速食べよう。茉莉。包丁持ってきて」
 
「はいはい」
 
 足元にあるバケツを持って、茉莉はそのまま奥へと消えていく。
 
「…………茉莉さんも食べられればいいんですけどね」
 
 茉莉が消えたことを確認し、春子はそう呟く。自動人形である茉莉は食べ物を食べることが出来ない。出来たとしても固形物は無理なので、全て流動食だ。穐は着物のすそに手を入れて、茉莉が消えた入り口を流し見ていた。
 
「まあな。ただ近い将来できるようになるかもしれない」
 
「へ?」
 
「あれは、人間の機能の全てが入ってるんだ。ただ普段は意味が無いからって封印しているし、その封印は簡単に解けるものじゃない。ただあいつが本当に『何かを食べたい』と思えば食事も出来るようになる」
 
「…………そうなんですか」
 
 それを聞いて、春子は何となくほっとする。茉莉が人に近づけば、自分はもっと茉莉に近づけるように思えたからだ。
 
「そうなれば良いですね」
 
 春子は本当にそう思う。茉莉は美味しい料理を作れるが食べることは出来ない。美味しい食べ物を食べることがどれほど幸せか、茉莉にも知ってもらいたいものだ。
 
「…………君は本当に良い子だね」
 
 穐はそう言った。
 
「へ?」
 
「いや、それは君の美徳だ。大事にしてくれよ」
 
 何故だろう。穐は不思議な表情を浮かべて春子にそう言った。春子では理解できないような複雑な表情。どうしてそんな表情をするのか春子には分からなかった。
 
「…………はい」
 
 不思議に思いながらも、春子は頷く。
 
「はい。持ってきましたよ。包丁」
 
 そこで茉莉がやってくる。
 
「お、それじゃあ早速食べようか。春子ちゃんも食べるだろ」
 
「はい。それじゃあいただきます」
 
 店の奥のテーブルに集まり、チョコレートケーキを切り分けることにする。
 
「結構大きいな」
 
 呟く穐。
 
「しっかり全部食べてくださいね。頼んだのは穐さんなんですから」
 笑いながらチョコレートケーキを八等分に分けた。
 
「ごめんください」
 
 チョコレートケーキを切り分けたその時、戸が開いた。
 
「……いらっしゃいませ」
 
 穐は一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに普段の表情に戻り、現れたお客様を見た。
 そこにいたのは老人だった。顔はしわだらけだが、活力のある顔立ちをしており、背筋もしっかりしている。見事にスーツを着こなしており、その風貌は大企業の社長のようだった。
 
 老人はかぶっていた帽子を取って、それを胸に当てた。
 
「高井時計店とはここでよろしかったかな?」
 
「はい。そうです。僕が店主の高井穐です」
 
「そうですか。いやはや、少々道に迷ってしまいましてな。やはり慣れないことはするものじゃないですな」
 
 そう言って老人は微笑む。
 
「刀根様…………で、よろしかったでしょうか?」
 
「おや、分かりますか」
 
「はい。お買い求めいただいた時計がお客様の左腕にございますから」
 
 帽子を取った手の首に先日穐が売った白銀の時計があった。
 
(あ…………)
 
 刀根と聞いて引っかかっていたが、どうやらあの春風の旦那さんなのか。春子は一度しか会っていないあの婦人のことを思い出した。
 
「なるほど。あいつの言うように良い店のようだ…………」
 
 そう言って、老人はそのまま店内を歩く。
 
「ここは機械式専門店のようですな」
 
「はい。半分は僕の趣味ですが」
 
「なるほど。良い趣味をお持ちだ。さぞや奥さんが嫉妬することでしょう」
 
「ええ。毎日怒られていますよ」
 
 春子が恐る恐る茉莉を見ると茉莉は口を尖らせていた。なんだか微笑ましくて春子は声に出さないように笑う。
 
「それで、刀根様。どうしてこちらの?」
 
「ああ、そうでしたな。一応このことをあなたにも知ってもらいたくてここに来ました」
 
 老人は帽子をかぶる。
 
 
「先日、家内が亡くなりました…………」
 
 
「…………え」
 
 春子は思わず、声を出してしまった。それに反応して三人が自分を見たことを感じる。一番初めに口を開いたのは老人だった。
 
「君は、伏見春子さんかな?」
 
「あ…………はい」
 
 老人は春子の元まで歩き、そして目の前に立った。
 
「君にはお礼を言わないといけない。君は家内に生きる希望を与えてくれた。本当にありがとう」
 
 そう言ってお辞儀をする老人に春子は慌てた。
 
「え、そんな。私は何もしてないです」
 
 老人は顔を上げる。
 
「いや、だが、家内はこの店のことや君のことを本当に嬉しそうに語っていた。とても楽しかったと。余命いくばくかも無い家内が本当に幸せそうに逝けたのは君のおかげだ」
 
「そんな…………私は…………」
 
 楽しそうに微笑む春風を思い出し、思わず目頭が熱くなった。たった一度しか会っていないのに、あの人がすでにこの世にいないと思うと、涙が止まらなくなってしまった。
 
「ごめんなさい…………私」
 
 肩を抱かれる。思わず、見上げるとそこには茉莉がいた。茉莉はいつもより優しく微笑んで、春子を見ている。それで春子は救われた。茉莉を強く抱いて、思いっきり春子は泣いた。
 
 
「あれは末期の癌でした…………」
 
 老人は出されたお茶をすすりながら、ぽつぽつと語った。
 
「発見が遅すぎた上にあの年齢だ。もう助かる見込みはありませんでした。私は必死であらゆる病院を探しました。もちろん海外を含めて。しかし家内を治してくれる医者は現れなかった」
 
 お茶をテーブルに置いて、手を組む。
 
「私は家内に謝りました。思えば私はあいつに重荷ばかり背負わせてきた。仕事が忙しくてろくに家にも帰らず、あいつを泣かせたことなど両手では足りんでしょう。仕事が軌道に乗り、大企業までに成長してようやくあいつの思い通りのことをさせてやれると思って肩の荷が下りたと思って数年。本当に自分が情けない…………」
 
 沈痛そうな思いの刀根を見ていながらも春子はずっと春風のことを考えていた。
 
 あの時、彼女はもうすでに自分の死期を悟っていたのだ。しかしそれを春子は気づくことが出来なかった。
 
「だが、あいつは私を許してくれました。笑顔で。『私は幸せだった』と。私は本当にあいつのことを何も分かっていませんでした」
 
 そう言って左腕に巻かれた時計に触れる。
 
「『私の替わり』と言ってくれたのがこの時計です。あいつはどんな豪華な生活も出来るのにいつも質素に暮らしていました。そんなあいつが奮発して買ったのがこの時計です」
 
 老人は顔を上げる。
 
「あの時、すでに病魔もあいつの体を蝕んでいました。この時計店にやってこれたのは奇跡でしょう」
 
 普通に笑い、お茶を飲んでいた彼女がそんな風だったとはとても思えなかった。
 
「ありがとうございます。家内はきっとこの時計店に来て本当に全ての夢が叶ったんだと思います」
 
 深々と頭を下げる老人。
 
「あいつはこの時計を渡してから春子さん。あなたのことばかり話していました。素敵な娘だったと。私にも孫がいるんだと。本当に嬉しそうに語っていました」
 
「…………そんな。私はただ…………」
 
 何もしていない。春風とただ話しただけだ。もし、あの時春風のことを知っていたらもっとたくさんのことを話していたのに。一秒でも長く、春風を楽しませたのに。
 
 だが、刀根は首を横に振った。
 
「あれはあなたに会えて満足だったんですよ。それだけで良かった。あなたに会えたことで本当に全てを得たんです」
 
「……………………」
 
 春子は分からなかった。何故自分に会えて春風は幸せに逝けたのか。本当にそうなのか。それが理解できなかった。
 
「今のあなたでは分からないかもしれない。ですが、これだけは覚えておいてください。家内は本当にあなたに出会えたことを何よりも得がたいものとして逝ったのだと…………」
 
 刀根の言葉を、まだ理解できないままでもそれでも覚え続けようと春子は頷いた。
 
 
「立派な保母さんになってください」
 
 それだけ言い残し、刀根は店から出て行った。
 
「一期一会ね…………」
 
 茉莉の呟きに春子は顔を上げる。
 
「一度出会い、そして分かれたらもう二度と会えないかもしれない。だから出会ったらその出会いをただの一度しかないと思って大切にしなさいという言葉」
 
「…………」
 
 自分はそんなことは思っていなかった。ただ漠然とその出会いを甘受していただけだ。
 
「春子ちゃん。あなたの一期一会はまだまだたくさんあるわ。だから、その気持ちを忘れないでね」
 
 考えたことすらも茉莉に見抜かれ、頭をなでられる。春子は複雑な心境のままその感触と言葉を心に刻み込むことにした。
 
 
「はい、これ」
 
 バレンタインから一週間後。学校では特に何の盛り上がりもなく、一週間経ってしまった。春子は昼休みパンを食べていた崇の元へやってきた。
 
「はいこれ」
 
 そう言って崇に向かって差し出す。
 
「何これ?」
 
 崇はパンを食べながら緑と白のストライプの紙で包まれたものを受け取る。
 
「プレゼント」
 
「何で?」
 
「う〜ん、一期一会を考えたから」
 
「は?」
 
 意味も分からずそれを丁寧に開けてみる。中に入っていたのは砂時計だった。木材で出来た土台に緑色の砂。何の変哲も無い砂時計。
 
「2分41秒計れる砂時計」
 
「ああ…………って何で?」
 
 カップラーメンの話を前にしたことを思い出したが、それは2分40秒だ。そうすると1秒多くなってしまう。
 
「何となく」
 
 そう春子は言った。
 
「わけわからん。ま、とにかくサンキュ」
 
 首を横にかしげながら砂時計を掲げる。
 
「うん」
 
 春子はそう言って笑った。その笑みがどこか寂しそうに見えたのは崇の錯覚だったのかもしれない。
 
 
 人は常に孤独である…………そばに誰がいようとも、誰も自分を理解することなど出来ないのだから…………
 
 
 一つになることもできず、かといって離れることは出来ない。
 
 
 ゆえに人は手をつなぐ。理解できなくとも…………理解されなくとも、その想いだけは同じだと信じているから…………
 
 
「……………………」
 
 春子は目を閉じる。心に残ったもやもやはまだ消えない。だが、いつかこのもやもやも力に変わるだろう。
 
 
 そう信じて、春子は時を進めた…………

2分41秒 完

後書き