それは私が街を歩いていた時のこと。二学期も終わって普段なら家に引き籠もっているのだけど、あいにくネットゲームの期限が切れてしまっていた。しょうがなく、コンビニにチケットを買いに行くことになったのだ。何もこんな日にと思うかも知れないが、クリスマスイブではネットゲームでもイベントがいっぱい。この日ではないと手に入らないアイテムもある。だからどうしても私はこの日はネットに潜らないとならない。別に親友に裏切られてクリスマスイブに予定が無い訳じゃない。断じて無いのだ。
「克美め……何が『私たちは彼氏なんていらないよね』よ…………」
親友の約束などテッシュペーパーよりも薄いことを再確認しながら、私は空を上げた。
空はどんよりと曇っていて、今にも雪が降りそうな天気だ。そうなればホワイトクリスマス。首都圏で雪の降るクリスマスは数十年に一度の珍しい出来事らしいけど、私には関係ないことだ。
私の人生が始まって以来、私には恋人などという関係の人物は残念ながらいない。まあ、焦っても仕方ないし、積極的にそんな人物を捜したこともないのだが。それにそういう相手はきっと巡り合わせだと思う。私にはその運がまったくないという話しだ。
「…………………………」
そう、私には運がない。
「……………あ」
いかん、いかん。変なことを思い出してしまいそうになってしまった。
再びコンビニに行くため正面を見つめる。
「………………」
そして、私は息を呑んだ。
「…………」
彼は私を見ていた。あんなに遠くにいるのに私にはそれがはっきりと分かったのだ。ほんの小さな子供。たぶん小学一年生くらいの男の子で、赤い帽子に赤い服。襟は白いふわふわした綿毛が覆われており、まさにサンタクロースの姿そのままだった。その子は私をしばらく見ているとそのままわき道へと消えていく。
「…………ちょ」
理由は分からないけど、あの子を見失ったら大変なことになる。そう思って私は少年を追いかけた。わき道へ走っていくと、先ほどと同じ距離でサンタの少年はそのまま立っている。
「ねえ!」
声をかけるとサンタの少年はまた横へと消えていく。私はその姿を探すため再び走り出した。
ボクは転校してこの街にやって来た。みんなと別れるのは嫌だったけど、お父さんの転勤だから、仕方なかった。積極的じゃなかったボクにいきなり転校してきて友達などできるわけも無く、ボクは一人で遊ぶことが多かった。いつものように砂場でお城を作る。でも、テレビで見ているお城はうまく出来なくて、ちょっと山を作っただけで直ぐ崩れてしまう。でもボクは何度も繰り返しお城を作り続けていた。ボクはちょっとした願い事をこめてこのお城を作っていたのだ。このお城ができれば…………
「はぁ、はぁ、はぁ」
なんだか不思議の国のアリスになった気分だった。走れば消えて見つけたら止まり、追いかければ逃げる。私とサンタの少年はその繰り返しだった。そして分からないのが、こんなことを繰り返してているというのに、私にあきらめるという気持ちが全く現れなかったことだ。こんなことをされて、なんで私は黙ってあの少年を追いかけているのだろうか。自分のことなのにおかしくなってしまう。
「…………」
次の角を曲がるとやはり少年はその場で私を待っていた。これはどれほど手の込んだいたずらなのだろうか。私の頭をよぎるが、でも追いかけることを止めることが出来ない。私の足が進むとサンタの少年の足も進む。次の角、次の角、そして。
「あ…………」
サンタの少年は公園の中にいた。ちょうど動物避けが設置されている砂場の真ん中にいる。昔はあんな動物避けなんて無かった。
「ここは…………」
懐かしい場所だった。そしてもう来ないと誓った場所。いつの間にか私は一番悲しい思い出と一番楽しい思い出があるこの公園にたどり着いていた。
ボクの願い。それは、このお城ができたら友達ができるというものだった。誰も見ていない公園。それでももしこの場所にお城が出来たらみんなビックリしてボクを見てくれる。そう信じていた。だからボクは一生懸命お城を作った。でもお城は出来なくてそれが悔しくて、ボクは泣きながらお城を作った。
「本当に久しぶり…………」
子供の頃に見た時よりも遊具は全部小さくなって、それでもほとんど記憶通りの公園。私は一歩足を進める。でも、サンタの少年はどこにも行かなかった。私はブランコやジャングルジムに目もくれず、砂場へと歩いていく。サンタの少年は私が目の前に立っていても、やはり逃げることは無かった。
「ここが、あなたの目的地?」
私はしゃがみこんでサンタの少年に身長を合わせた。サンタの少年はちょっと凛々しい顔をしていた。なんだかひどく懐かしい顔をしているような気がする。
「どうしてこんなところに?」
私は訪ねてみる。でもサンタの少年は何も言わずに砂場にしゃがみこみ、砂をかき集め始めた。
「…………」
私はそれを眺めて、やがてそれを手伝うことにした。
「何してるの?」
誰かがそう訪ねた。ボクは顔を上げる。そこには一人の男の子がいた。ボクより身長が高くてボクより短い髪。誰もこない公園に、何故か男の子がボクを見ていた。
「何してるの?」
ボクの行動に興味を持ったのか、男の子はボクの目の前にやってくる。信じられなかった。ボクはまだお城を作っていないのに、ボクに話しかけてくれる子が出来たのだ。
でも、ボクは恥ずかしくて何も言い出せなかった。何か言えば友達になれるかもしれないのに。ボクは何も言い出せなかった。
『お〜い、早く行こうぜ』
遠くから声が聞えた。目の前の男の子を呼んでいるのだ。
「うん、今行く!」
そう叫ぶとボクをもう一度見て、男の子は友達の元へと行ってしまった。
その日、ボクは作っていたお城を壊して、泣きながら家に帰った。
サンタの少年はどうやら大きな山を作ろうとしているようだ。私もそれを手伝うことにする。冬場なのに何故か砂は暖かくて作業は寒さで滞ることは無かった。砂場の砂を端からかき集めて大きな山を作る。
「お山を作るの?」
私はサンタの少年に尋ねてみた。
「…………」
しかし、サンタの少年は首を横に振る。どうやら山ではないらしい。
「お城…………」
初めて少年が口を開く。
「え?」
けど、私を驚かせたのはサンタの少年が言った言葉だった。
「お城を……作るの…………」
結局ボクは次の日もお城を作ることにした。やっぱりお城が出来なかったからあの子に声がかけられなかったのだ。ボクはそう自分を納得させてお城を作り始めた。でもやっぱりお城はうまく出来ない。どんなに高く山を築いてそこからお城の形になるように削ってもどんどん余計な場所まで崩れていって結局お城の形には全然なってくれない。崩れてしまった砂を見て、ボクはまた同じ事を繰り返す。いつか絶対にお城が出来ると信じて。
「何してるの?」
そんなボクの前にあの男の子が再び現れた。
「お城を…………作るの?」
私は動悸が早くなるのを感じながらそう訪ねた。
「うん」
サンタの少年はそう答える。
「…………なんで?」
「…………」
少年は答えずに私を見た。まるで水晶のように透き通ったその瞳に私は思わず吸い込まれてしまうのではと錯覚する。
「…………願いが叶うから」
「!?」
雷に打たれたような衝撃が私の全身を襲った。「どうして」と言う前に「何で」と問いかけてしまう。それは私の記憶。捨ててしまいたかったけど、でもやっぱり捨てられなかった私の記憶だ。それをどうしてこの子が知っているのか。訳がわからなくなった。
本当は飛び上がりたくなるくらい嬉しかった。またこの子が来てくれるなんて思っても見なかったから。だから、今日こそちゃんと話そうと思った。でも、恥ずかしくてボクは話せない。
「何してるの?」
昨日と同じ問いかけ。この問いかけにちゃんと答えなきゃ。ボクは必死になって、でも恥ずかしくて顔を上げられず本当に小さな声で「お城」と呟いた。
「お城?」
その子はボクでも聞き取れないような声を聞き取り、ボクの目の前に立ってくれた。
「お城を作ってるの?」
ボクが言いたかった言葉をその子は言ってくれた。ボクは大きく頷く。そしたらその子は笑ってくれた。
「じゃあ、手伝うよ」
そう言ってくれたのだ。
その日からボクはその子と一緒にお城を作ることになった。
「何で崩れるのかな?」
「…………」
「そうだ。重石を使ったら固まるかも」
「…………」
「ん〜駄目か〜」
大抵はその子が一方的に話して、ボクは頷いたり首を振ったり。でも必死になってボクは彼に付いて行った。彼を見失ったらいけないと心の中で思っていたから。だから必死になって彼を追いかけた。
「ねぇ、ねぇ、君って何年生?」
「二年生…………」
「そっか、なら同い年だ」
その子の笑みはとてもまぶしくて、なんだか見ていると凄く恥ずかしくなる。でも本当はいつもその笑顔が見たくて、でもボクは彼が笑うといつもうつむいていた。
その子とはいつも一緒だった。彼がいないと何も出来ないボクでも彼と一緒だったら何でもできるような気がした。
彼のおかげで彼の友達もボクの友達になっていった。お城は出来なかったのに、でも、ボクの願いは叶ったのだ。
「出来ないね、お城」
「うん。どうしてかなぁ。テレビじゃあんなにきれいに出来るのに」
首をひねりながらボク達は考える。毎日だったお城作りはいつの間にか週に一回になっていた。でも、ボク達はお城を作り続けた。
「どうしてお城を作っていたの?」
彼はそう訪ねる。ボクは答えるのが恥ずかしくて、でも彼に嘘をつくのも嫌だったのでこう答えた。
「ここでお城を作ると…………願いが叶うから」
それは本当のことなのだ。だから私はお城を作り続けた。必死になってお城を作って。でも、たぶん、その願いはたった一つしか叶えることができなかったのだ。
サンタの少年は手を止めた私に構わず山を作っては崩していく。
「…………」
私はそれを見て、目頭に涙を溜めながらそれを拭って辺りを探す。ちょうど砂場を出て動物避けの隅におあつらえ向きのバケツがあった。
「ねえ」
私は少年に声をかける。少年は手を止めて私を見た。
「お城の作り方。教えてあげる」
その子が最近遊ばずにどこかに行っているのがとても気になった。遊びに誘っても「用事がある」と言ってどこかに行ってしまうのだ。ボクは不安になった。何故だか彼が遠くへ行ってしまうのではないかと思ってしまったのだ。ボクは密かに彼を追いかけることにした。彼の居場所は意外な場所で、ボクにとってはおなじみのところだった。
いつもの公園。そして彼は砂場でお城を作っていたのだ。願いの叶ったボクはお城を作るのを止めてしまった。彼もボクに合わせるようにお城を作ることをしようとはしなかった。でも、彼はお城を作っていた。ボクはそれをずっと眺めていた。
彼は毎日繰り返しお城を作っていた。まるで転校したてのボクみたいに。毎日、毎日繰り返しお城を作っていた。だから、ボクは思わず公園に走っていき、彼を手伝い始めた。彼は最初は驚いたけど、でも何も言わず、ボクと一緒にお城を作り始めた。
毎日、毎日、毎日。繰り返してお城を作る。でもやっぱりお城はできなくて、でもボクたちはめげずにお城を作り続けた。
転機が訪れたのは理科の実験だった。土や砂に水を加えることで砂や土が水に溶けたり土は水を溜めるけど砂は水を溜めない。そんな実験をした時にボクは閃いたのだ。水をちょっとくわえれば砂は固まるという言葉を聞いて。
ボクは嬉しくてその日、直ぐに砂場にやってきて、彼を待った。しばらく待ってもやってこなかったので、お城を作ることにした。持ってきたバケツに水を入れて砂と水を混ぜて固めていく。さらさらの砂がしっかりと固まってビックリするくらい簡単に形は整った。ボクは丹念に砂を削り、そして、ついに砂のお城を完成させた。これを見せたらたぶん彼は驚く。そしてきっと笑ってくれるはずだ。ボクは彼が来るのを待ち続けていた。
「こうやって水を加えると砂が固まるのよ」
バケツを使って汲んできた水を砂場に流し込み砂を固めていく。サンタの少年はこんな方法があるとは知らなかったのだろう。驚いた表情を浮かべるが、すぐに顔が引き締まり山を築いていく。一通り水を含ませた砂を私もサンタの少年と同じように山にしていく。
山ができれば後はお城の形に削っていくだけだ。私は時折サンタの少年にどのような形にしていくか訪ねつつ、お城を作っていく。
何度も削るのを繰り返して、やがて輪郭ができ、そして形になっていく。砂のお城ができあがる。もうすぐで。
彼はその日も、次の日も、その次の日も来なかった。彼の友達から彼が転校したことを聞いたのはその一週間後だった。ボクはそれから一ヶ月間、お城を作り続けた。何度も繰り返して作った。その日出来たお城は次の日に壊して新しく作る。それを一ヶ月繰り返した。でも、願いは叶わなかった。
「できた」
お城が完成する。前に私が作ったときよりうまく出来たと思う。
「…………」
少年は感慨深げにお城を見ていた。
「良かったね」
「うん」
少年は笑って頷く。
「で、何をお願いするの?」
もう子供ではない私にこのお城がお願いを聞いてくれるとは思えない。だから願い事はこの少年が受け持つべきだろう。
「…………」
少年は少し、戸惑った後、ゆっくりと口を開いた。
「また、あの子に会えますように」
「…………え? きゃ!」
風が吹いて、思わず私は目を瞑る。そして、目を開くと、そこには少年はいなかった。
「嘘…………」
信じられなかった。幻にしてはあまりにもリアルすぎる。それとも私は狐に化かされたのだろうか。でも、
「お城はある…………」
砂場に出来たお城はそれが白昼夢ではないことを示している。
「何で…………」
と、後ろから土を踏む音が聞え、私はあのサンタの少年を思い描き、後ろを振り返る。
「あ」
そこにいたのは少年ではなかった。けど、
「あ…………」
嘘だと思った。ありえないと思った。でも、でも。
「久しぶり」
彼はそう言った。
信じられないくらい当たり前に、私は彼を彼は私であることが分かった。十年間一度も会えなかったのに。
「また、会えるなんて思わなかった」
彼はそう言う。私だってそうだ。会えるなんて思っても見なかった。
「ボクだって…………」
十年ぶりに使う一人称。一ヶ月お城を作っている間に捨ててしまった自分の表す言葉。彼を目の前にして思わずそれを使ってしまった。それを聞いて彼は苦笑する。
「まだ、一人称が『ボク』なんだ」
「違うわよ。でも、あんまりに懐かしいから…………」
こんなことあるはずないって思ってたのに。それでもあの一ヶ月間、願いを叶えるために必死になってお城を作って諦めるのに一ヶ月もかかってしまったというのに。それでも捨て切れなかった想いがあって。
「悪かったな。あの時何も言わずにいきなり」
彼はほとんどの友達に転校することを伝えなかった。みんなに悲しい思いをさせたくなかったって言っていたけど、私は彼に突然捨てられてしまったような気がしたのだ。
「本当よ。私があの後どれほどのトラウマを受けたか知ってるの?」
「ごめんな。でもさ、もしかしたらって思ってたんだ」
彼は私のほうに近づいていく。
「ここでお城が出来れば転校しないで済むんじゃないかって」
「…………」
「あの時、俺がどんな願いを込めたか分かる?」
「転校しないようにじゃないの?」
彼は私を追い越して、砂場のお城を見てしゃがみこむ。
「出来たんだな。お城」
「うん。あの時転校していった時に」
「そっか。あの後、俺もお城の作り方を知ってさ。転校先でもずっとお城を作ったよ。おかげで砂の城を作らせたらプロ級」
彼はおどけて、立ち上がり、私を見る。やっぱり彼は私より身長が高くて私より髪が短かった。
「私だって、転校して行った時から一ヶ月もお城作ってたんだから」
「そっか…………」
彼は頭をかく。なんだか少し照れくさそうにして。「あっ」と思う。鼓動が跳ねるのを感じる。もしかしたら…………。
「あのさ。俺、あの時ずっと一つの願い事をしてたんだ」
「どんな?」
期待している自分がいる。たぶん、これは、きっと。
「…………『目の前にいる子とずっと一緒にいたい』って」
「……………………」
「十年間待たせちゃったけど……って」
駄目だ。もう限界。
私は、自分でも分からないけど、溢れる涙を止めることができなくなってしまった。慌てる彼。
「え? なんで!」
「煩い! 私も分からないのよ! なんだか凄い涙が出てきて…………」
嬉しいのか、昔の悲しかった思い出を思い出してしまったのか、それとももっと別の何かなのか。全然分からないけど、涙だけは止まらない。どんなに拭っても涙が流れてきて。
「うえ〜ん!」
もう、何がなんだか分からなくなって、私は彼の胸に飛び込む。彼の顔は見えないけど、でも彼の体はそんな私を包んでくれる。だから私は彼の胸で思う存分涙を流した。
ようやく涙が止まったのはもう日が暮れて空が黒くなっている時間だった。
「大丈夫?」
彼はそうたずねる。
「うん」
泣いているときは気づかなかったけど、すごいシチュエーションだ。男の人に抱きしめられるなんて、初めての経験。
そんなことを思うと、体が熱くなってくる。
「このままでいいから聞いてくれる?」
「…………うん」
たぶん顔を見たら恥ずかしくて逃げ出してしまいそうだから。私は彼の胸にうずくまる形で彼の言葉を聞いた。
「十年間待ったから。会えたらすぐ言おうと思ってたけど…………」
「……………………」
彼の鼓動が近くで聞えている。その鼓動とまるでシンクロするみたいに私の鼓動も早くなっていく。
「十年前。始めてあったときから好きだった。できれば…………付き合って欲しい」
「…………」
私は、体をこわばらせる。体中の発熱器官が総動員して冬なのに暑いくらい。私は出来る限り、平静を装い、顔を上げる。
「じゅ…………じゅじゅ」
いきなりかんでしまった。
「?」
「!」
再び彼の胸の中。ホント最低だ。やっぱり気の利いたことなど私には言えない。だから、もう一度顔を上げて、
「うん。いいよ」
伝えたい言葉だけ、伝えることにした。
「そっか。良かった」
彼はため息をつき、緊張を解く。
「ここで振られたら俺、生きていけなかった」
「でも」
「ん?」
「十年前みたいにいきなりいなくなったりしないでね」
「…………約束する。今度は絶対離れないから」
「なら、いいよ」
私はそっと、彼から離れる。そして再び彼を直視した。何だかすごい照れくさくて、でもそれは彼も同じみたいで目線をそらす。
「じゃあ、これからどうする?」
「どうしよっか? 今日はもうネットゲームする気にならないし」
「ネットゲームやってるの?」
「え、問題ある?」
「いや。俺もやってる。LO」
「あ。私も」
「え? じゃあ、鯖は?」
「アルヒャイ」
「嘘! 同じ!」
「ホント!」
なんという偶然。私たちはそれから笑いあった。
「じゃあ、今日はクリスマスイベントのためにチケットを買いにコンビニに?」
「もしかして…………」
「以下、同文」
もはや、言葉もない。
「それじゃあ、今度はネットで会おうか。そんで明日の予定を決めよう」
「うん」
私たちは笑う。その間に白いものがゆっくりと落ちてきた。私たちは思わず空を見上げる。黒一色でしかなかった空に白い星が舞い降りてくる。
「雪…………」
「ホワイトクリスマスか…………」
それを見て、私たちはまた笑う。そして歩き出す。
「そういえば」
「何?」
「さっき、OKする前に何を言おうとしてたの?」
「あ、あれ」
ちょっと思いついたキザな言葉だ。けど緊張してて全然言えなかったけど。
「ちょっとキザな言葉。緊張してて言えなかったけど」
「どんな言葉?」
「う〜ん」
私はちょっと小走りになって彼を追い越すと、振り返り、彼と対峙する。今なら、これだけ幻想で夢見たいな話が重なっていれば、緊張など、クリスマスの奇跡の力を借りて再び会えた偶然に比べれば。
私は最高の笑みを彼に送り、十年間の想いをこめる。
「十年間、想い続けた私のために責任はとってよね!」
SCS 完