ハチワンダイバー
著者:柴田ヨクサル
発行誌:週刊ヤングジャンプ


将棋盤に人生を


小学のとき、将棋にはまっていた時期があったのですが、
親父や爺ちゃんにまったく勝てず悔しい思いをしたことがあります。
その後、結局将棋はやらなくなってしまったのですが、ルールだけは
しっかりと覚えることはできました。そのためときおりHNKでやっているような
将棋講座をみているのですが、プロ棋士がおこなう将棋はあまりにも難解で奥が深く、
僕のようなルールしか知らないような人間では「何故ここで歩をとらないのか?」
など疑問がわきます。しかし、この漫画において将棋のルール、そして指し筋は
さして気になりません。


主人公はプロになることをあきらめ賭け将棋で稼ぐ菅田。しかしそんな中、
アキバの受け師と呼ばれる人物に負けたことにショックを受け、再戦のため
部屋を掃除して研究をしようと部屋の掃除をしてくれる業者に連絡をします。
するとやってきたのはメイド。偶然にもメイド掃除サービスに連絡してしまった菅田は
しかし、そのメイドが自分を負かした「アキバの受け師」であることに気づきます。
そして再び再戦し負けてしまい、そこから本気で「真剣師」の道を目指し始める。

まあ、上記内容は他のサイトでいくらでも紹介していると思うので流し見でw


将棋盤を借りた格闘漫画


この漫画の凄いところは普段の将棋漫画はどこか「静」を象徴としています。
外面は穏やかだが、中は恐ろしいまでの劣情を燃やす。そんな感じですが、
この漫画は外面からおかしいw
まず、象徴的なのが、主人公の「ダイブ」です。ハチワンダイバーとは主人公、
菅田が真剣師として挑む際に使う名前です。由来は将棋盤9×9に「潜る」から
なのですが、この描写が非常に格好良い。相手の出方を伺い、相手が本物であると
認識した瞬間、大きく深呼吸を繰り返して「ダイブ」の一言で将棋盤に「潜る」。
まるで変身シーンのようで、主人公の反撃が開始される瞬間です。
他の登場人物も異彩を放っており、ホームレスから始まり、漫画家や果ては
人形師にして変身ヒーローだったりとこのような多彩なキャラが登場します。
そして、その一戦一戦が非常に濃く、それでいて重厚な威圧感を放ちあうまるで
格闘漫画を見ているような気持ちにさせてくれます。


おっぱいを揉む権利を賭けて



「ハチワンダイバー」を有名にした出来事。ホームレスの通称「二こ神」と呼ばれる
人物と対戦するときに彼が「わしが勝ったらそよ(受け師さん)のおっぱいを揉む」
という発言に対して菅田も「なら、僕もおっぱいで」と切り替えした伝説の話です。
しかもこの二人の凄いところはその「揉む」権利を現金百万円以上の価値と
「本気で」思っている点です。そのためこれが決まった瞬間、二人の顔は
今までに無いほど真剣な表情となりました。そしてその価値観がまったく分からない
立会人の受け師さん。この三人のそれぞれの葛藤と言葉が
この伝説を作り出したのだと思います。男二人はさまざまな思いを巡らせ、たと思います男の意地とプライド。他にほろ苦い過去もブレンドされ、
結果、「おっぱいを揉む」という賭けが成立した。男達二人はその背景が結果として
「おっぱい」になったのですが、その背景を読者、そして受け師さんはいきなり見せられ、
唖然とするしかありません。そんな広大な背景を持ちながら結果がしょぼいという
なんともハードボイルド的なこの二人のやり取りが伝説へと昇華したのでは
ないでしょうか。


将棋バトル漫画



総称すれば、これは将棋というバトルフィールドで戦う格闘漫画という位置づけが
一番しっくりくるのではないでしょうか。ただし、「ならば将棋じゃなくても
いいのでは?」という思いにもなりますが、しかしこれは将棋ではなくてはならない
そうです。作者の方は非常に強い将棋指しでもあり、一時はプロの養成所である
奨励会に行くかもしれないというほどだったそうです。そこで培った将棋という世界が
この物語にマッチした。ゆえに将棋なくしてこの漫画は語れないのです。
加えて作者がそのような実力者なので、ルールがまったく分からない人も
読めるのですが、詳しい人が見てもかなり納得が出来るつくりになっているとのこと。
実際棋譜を考察しているサイトもあるほどですので、将棋を知っている人も知らない人も
ほどなく楽しめる作品ということです。


総称


正直言えば、理屈ぬきで単純娯楽作品として読んでもなんの問題もないのですが、
登場人物一人一人をじっくり見抜いてそれぞれの人生を楽しんだり、
または将棋の筋を考察するなど見方はそれぞれだと思います。
そしてそれに耐えることが出来る重厚な作品。
それがこの「ハチワンダイバー」では無いでしょうか。

評価:★★★☆(3.5 五段階評価)

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